アラフィフの女性から人形の修理を依頼されました。40年ほど前にお父さんからおくられたおもちゃだそうです。
劣化が進み、内部の接続柱が折れ、モーターは回らない状態でした。何とか直して返却したときに、とても喜んでくれて、そのおもちゃにまつわるエピソードを語ってくれました。
「私が小学生の時、父が酔っ払っての帰り道、偶然見つけたおもちゃを買ってきたのだと思います。私に見せると『ほらこれ面白いだろう』と、とても楽しそうに動かして見せてくれました。私も喜ぶと思ったのだと思います。でも、私は、ちょっと気持ち悪いおもちゃで全然面白いともかわいいとも思いませんでした。おそらく冷ややかに眺めていただけだったと思います。父が一人で楽しんでいたのを覚えています。気に入らなかったのですが捨てもせず、そのままお蔵入りのままでした。
最近になってこのおもちゃが妙に気になり、父親の思い出が浮かび、自分が冷ややかな反応しかできなかったこと、それを父がどう思ったのだろうなどと思うようになりました。今になると父の気持ちがわかるような気がして、大切にしたい気持ちがわいてきたのです。
劣化で黄ばんでいて、セロテープの跡もそのまま、口のシールは剝がれかけています。ネットで調べるととても状態のいいものが出ていました。でも、やはり傷んだこの人形でなければ伝わってこないものがあるのに気づきました。ただ、動くようになればなおいいという思いで修理依頼しました。動かなくても大事に飾るつもりでいたのですが、動くとまたそれであの時のことを思い出すのです。うれしいです。」
そういって喜んでくれました。子供のころはお父さんとはちょっと距離感を感じる関係だったようです。でも自分が年を重ねてわかるようになったというわけです。よかったね、と一緒によろこぶことができました。彼女はこんな話もしていました。おそらくクリスマスの時の話でしょう。
「私が、人形が欲しいと父に言うと、クリスマスの日に買ってきて、夜、枕元にそっと置いてくれました。朝、目が覚めてみると確かに人形があったのですが、それはキューピー人形でした。私はリカちゃん人形のようなかわいいものが欲しかったのに。とてもがっかりして父には多分不機嫌な顔を見せたと思います。キューピー人形のほうが安かったんだろうと子供ながらに思いました。父はその時『サンタさんが、夜、やってきて置いていってくれたんだね。お人形が欲しいって言ってたから願いが叶ったんだね。よかったねえ」って。父は、子供のファンタジーを叶えてあげて、さらには、わたしが大喜びするとはずと、ワクワクしていたのかもしれません 今は、その時の父の気持ちがわかります。そのキューピー人形は手元にありません。でも、今回の、<気持ち悪い人形>を見ると、そんなことも蘇ってくるのです。」
おわり
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