頭部、腕、脚はソフビで、胴体は布で出来ています。大きさもぽぽちゃんほどです。
目が動かない、腕が紛失、汚れが酷いという症状です。
眼球は定番のピン折れが原因です。内側から眼球部を切開して眼球を取りだし、ピンはゼムクリップで作って交換します。
ソフビ部分の汚れはアルコールとアンモニアで洗浄です。眉、口、頬のペイントが落ちないようその部分は避けます。写真左脚は洗浄後 右脚は元のままです。実物は写真以上に汚れています。布部分は手に負えません。
問題は腕です。針金とキルト用綿で骨組みを作り、「石塑粘土」(石粉粘土というものもあるようですが)で形成しました。粘土は買ってきたままでは固すぎて造形できそうにないため、水で緩めながらよく練りました。結果的にキルト綿は指などの細かい部分には不適でした。
色塗りはアクリル絵の具ですが、色作りに苦労しました。シロウトの限界を感じました。
胴体への取り付けは、縫えないためホットボンドで貼り付ける形にしました。
そうしてできあがったのが・・といきたいのですが、うっかり写真を撮る前に返却してしまいました。またやった、です。
持ち込んだのは年配のご夫婦で、娘さんが子どものころにカナダで買ってあげたものだそうです。傷みが激しく、かといって愛着のあったものなので捨てられもせず押し入れで眠っていました。娘さんがグアムにいて、懐かしがって、子どもに使わせたいのでなおるものなら直して送ってほしいと言われました。「これで娘に送れます」といって、帰りには慈しむように抱きしめて帰られました。
費用は実費を請求したのですが、それでは申し訳ないと数千円を出されました。それは遠慮して実費だけいただきました。こういう志は時々あるのですが、最近はこれはいただいた方がよかったのではとも思います。というのは、志を出していただくことでそのお客さんはおもちゃ病院活動を支援したことになるわけです。ボランティアでなくなるのではなく、むしろボランティアが広がったということです。
モノとしては新しいモノの方が見栄えもするのですが、そうではなくこれなんだという気持ち。それはおもちゃが無機的なモノではなく歴史を持ち、思い出とつながっているかけがえのないものというのをつくづく感じました。
この先は、実は・・の裏話
受け付けたときこのご夫婦には正直あまりいい印象を持たなかったのです。汚れや腕の欠損の修理を当たり前のように言うからでした。上から目線を感じてしまったのです。ただ、今はグアムに暮らす娘さんの思い出のおもちゃで、直して送ってやりたいというご夫婦の気持ちは伝わってきました。自分の技術的なチャレンジ精神もあって引き受けました。返却の際に説明をして渡すのですがその時もネガティブな気持ちを引きずっていてさらっと説明してお返ししました。その時に旦那さんが寄付を申し出てくれたのでした。なおった人形を受けとってご夫婦がどんな気持ちだったのかを目にしたのは返却スタッフのIさんでした。二人が部屋を出て、奥さんがトイレに入りました。旦那さんが外で待っていたのですが、その時両腕で抱きしめて慈しむように見つめていたというのです。旦那さんはその時何を思っていたのでしょう。Iさんにはその姿が何とも言えず美しく感じられて、その日に私にメールして教えてくれました。Iさんはボランティアで参加し始めて数ヶ月ですが、「わたしはこんな場面はじめて見ました!感動しました!Drには是非知らせないととおもいました。」と。
それを聞いた私は、そんなに喜んでもらえてよかったという気持ちと同時に、複雑な気持ちが湧きました。Iさんから教えてもらわなければ何も見えず、感動もありませんでした。邪魔をしていたのは最初のネガティブな(ちょっと怒りを含んだ)感情でした。共に喜び感動できる体験と冷ややかにものだけ直して渡すのとの何という違い。教えてくれたIさん、喜んでくれたご夫婦に感謝です。
こういうことがあると、おもちゃは子どもの玩具というだけでなく大人にとってそれ以上の存在だと感じます。
以上
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