2022年7月5日火曜日

SANKYOオルゴール20弁(古いタイプ)

 SANKYOオルゴールの修理を頼まれました。(写真は修理後)

40年くらい前のもので、耳の内側や襟のレースがボロボロ、軽く触ると崩れていきます。

ワンピースの襟ぐりはゴムが固化し、割れているため広がりっぱなしでした。ムーブメントは20弁の古いタイプです。

ゼンマイを巻いても途中でギアの滑る音がして空回りしてしまいます。このタイプは

何度か同じ症状を見ました。原因は写真のギアの部分で歯飛びするのです。歯飛びの原因はというと、①ドラム側の平ギアの固定が外れた。②風車に近い方の組み合わせギアの組み合わせ部分のカシメが緩んだ。③風車金具を固定するカシメが緩んだ。これらによりギアのかみ合わせが緩むのです。

この場合は①と②でした。


①は今回はギアを固定するプラ部分も劣化で完全に剥がれていたため接着で対応しました。(以前極小ビスで対応したことがありましたが、スペースの余裕がなく無理を感じました)この場合プラ部分の位置が決まっていて、位置合わせ(深さ)は大切です。

②は圧入で再固定ですが、うまくしないとギアや軸を変形させてしまい厄介です。一度はトンカチで叩き入れようとして失敗したことがあります。ここでは真鍮ギアを当てて保護しつつ圧入しました。



さて、これでよしと組み立てたところ、相変わらずギア滑りが生じました。

原因はおそらくドラムの軸がすり減ってドラム自体が外へ逃げ、ギアの間隔が広がってしまうと推測しました。軸を再生はできないので、軸受けがあるスチールの香箱をわずかに動かして再固定することにします。(写真はプラ製香箱のもの)


香箱固定のカシメを削り取り、M2のビスで固定します。このときゆるめに仮固定した状態でオルゴールを鳴らし、香箱をわずかに動かしなから、歯飛びせず、きつすぎずのところで本固定します。最後はネジ、香箱を接着剤で固定しておきます。

それで歯飛びによる空回りががなくなりました。

この作業ではドラムを外す必要があります。このタイプは頭が引っ込んでいて面倒です。ドラム側の少し見えている部分に細いラジペンを入れて回す方法で頭が出たところで刃物で切り込みを入れドライバー用の溝を作りました。(写真は以前の方法で台座ごと刃を入れ、ドライバー溝を作製したもの)



この修理ではあらかじめ櫛歯を外しておきます。そうしないとドラムが急回転して櫛歯を折ってしまうことがあるのです。この点は先輩ドクターからよく注意されていました。櫛歯が折れるとその曲の復活はほぼ不可能になります。

このオルゴールを持ち込んだのは中年の男性でした。少し話している内に、これは奥さんの形見の品と分かりました。奥さんはつい2,3ヶ月前に急に亡くなったのだそうです。まだ53歳だったそうです。子どものころから大事にしてきたものだったそうです。亡くなった生々しさからまだ冷めやらず痛々しさを感じました。そんなことがわかって、修理にも気合いが入りました。


偶然にも同じ時期に同じタイプのオルゴールが入ってきていました。珍しいことです。症状と原因は同じでした。